ケリーテスとは?
メキシコ料理を支えてきた 食用野草と葉野菜の文化パパロ、ベルドラーガ、 ワウソントレ、チピリン、 ロメリートス、チャヤ。 日本では聞き慣れないこれらの植物は、 メキシコでは 「ケリーテス」と呼ばれる 食文化の一部です。
まずは簡単に解説
ケリーテス(quelites)とは、 メキシコで食用にされてきた 若い葉、茎、芽、花などの 総称です。
一種類の植物の名前ではなく、 日本語でいう 「食べられる野草・山菜・葉野菜」 に近い考え方です。
メキシコでは 350種類以上の植物が ケリーテスとして食べられており、 タコス、ケサディージャ、 タマル、スープ、モレ、 煮込み料理など さまざまな料理に使われています。
「ケリーテス」という 野菜があるわけではない
ケリーテスを初めて聞くと、 「ケリーテスという名前の野菜」 だと思ってしまうかもしれません。
しかし実際には、 ケリーテスは 特定の植物を指す言葉ではありません。
スペイン語では quelites。 その語源はナワトル語の quilitlにあり、 食用になる柔らかい植物や 野菜を意味する言葉です。
若い葉、 柔らかい茎、 新芽、 花や花序など、 植物によって 食べる部分も異なります。
「山菜」という言葉が ワラビやゼンマイなど 複数の植物をまとめて表すように、 ケリーテスも 多様な食用植物をまとめた 文化的な呼び方と考えると 分かりやすいでしょう。
ケリーテスは どこで育つ?
ケリーテスの文化を理解するうえで 大切なのが 「ミルパ」です。
ミルパとは、 とうもろこしを中心に 豆やカボチャ、唐辛子など 複数の植物を一緒に育てる メソアメリカ伝統の農耕体系です。
その畑の中や周辺には さまざまな野草も育ちます。
一見すると 「雑草」に見える植物の中から、 食べられるものを残し、 採取して料理に利用してきました。
代表的なケリーテス
非常に香りの強い葉野菜。 生のままタコスに添えたり、 プエブラ名物の セミータに使われます。
日本でもスベリヒユとして知られる植物。 少し酸味のある肉厚な葉が特徴で、 豚肉とサルサ・ベルデで 煮込む料理が有名です。
小さなつぼみが 房状につく植物。 チーズを挟んで 卵衣をつけて揚げ、 ソースで煮る料理などに使われます。
アマランサスの仲間。 柔らかい葉や茎を 茹でたり炒めたりして食べます。 シンプルな家庭料理にも よく使われるケリーテです。
メキシコ中央部を代表するケリーテ。 モレ、ノパル、ジャガイモ、 エビなどと合わせる クリスマス料理で有名です。
メキシコ南部で重要な香草。 特にチアパスでは タマルやスープなどに使われ、 独特の香りを料理につけます。
メキシコ南東部で親しまれる 大きな葉を持つ植物。 必ず適切に加熱してから 料理に使用します。
大きなハート形の葉と 独特の芳香が特徴。 魚や肉を包んだり、 タマルやソース、 モレなどの香りづけに使われます。
ケリーテスは どんなメキシコ料理に使われる?
① タコス
ケリーテスを 最も気軽に体験できる料理のひとつが タコスです。
特にパパロは、 タコスの横に 生の葉をそのまま添え、 肉と一緒に食べることがあります。
香りが非常に強いため、 玉ねぎやコリアンダーとは また違った メキシコらしい青々しい香りを 楽しめます。
② ケサディージャ
メキシコでは、 ケリーテスを炒めたり茹でたりして トルティーヤに挟み、 ケサディージャとして食べることもあります。
市場や家庭では キントニルや ワウソントレなどの 季節の葉物が 具材になることもあります。
③ タマル
南部メキシコでは ケリーテスとタマルの結びつきが 特に強く見られます。
代表的なのが タマル・デ・チピリン (Tamal de chipilín) です。
チピリンの葉を とうもろこしの生地に混ぜ込み、 蒸して作ります。
④ モレ・煮込み料理
ケリーテスは ソースや煮込み料理にも よく使われます。
ベルドラーガを 豚肉とサルサ・ベルデで煮込む verdolagas con cerdo はその代表例です。
またロメリートスは、 モレ、ノパル、 ジャガイモなどと合わせて 煮込み料理になります。
⑤ スープ
チアパスなどでは チピリンを使った スープも食べられています。
とうもろこしの生地を 小さな団子状にしたものと チピリンを合わせた料理など、 とうもろこし文化と ケリーテスが一緒になった料理もあります。
地域によって違う ケリーテス文化
| 地域 | 代表的なケリーテス | 代表的な料理・食べ方 |
|---|---|---|
| メキシコ中央部 | ロメリートス、 ベルドラーガ、 ワウソントレ、 キントニル | モレ煮込み、 豚肉との煮込み、 ケサディージャ、 卵衣揚げなど |
| プエブラ | パパロ、 ワウソントレなど | セミータ、 タコス、 煮込み料理など |
| チアパス | チピリン | タマル・デ・チピリン、 スープなど |
| オアハカ | チピリン、 オハ・サンタ、 その他地域の野草 | タマル、 スープ、 モレ、 トルティーヤ料理など |
| メキシコ南東部 | チャヤ、 オハ・サンタなど | スープ、 卵料理、 煮込み、 タマルなど |
プエブラ名物 「セミータ」とパパロ
ケリーテスの使われ方で 特に分かりやすい料理が、 プエブラ名物の セミータ・ポブラーナ です。
セミータは ゴマをのせたパンに 肉、チーズ、 アボカドなどを挟んだ プエブラを代表する料理です。
そこに使われる 特徴的な香草が パパロです。
パパロには コリアンダーよりも さらに力強い独特の香りがあり、 セミータの味を特徴づける 大切な存在になっています。
メキシコではパパロを タコス・アル・パストール、 スアデロ、 ビステック、 ロンガニサ、 カルニータスなどと 一緒に食べることもあります。
中央メキシコの ベルドラーガ料理
ベルドラーガ (Verdolaga)は、 日本ではスベリヒユと呼ばれる植物です。
肉厚でみずみずしく、 わずかな酸味を持っています。
メキシコでは、 特に中央部で 野菜として親しまれてきました。
代表的なのが Verdolagas con carne de cerdo です。
豚肉とベルドラーガを トマティーヨや青唐辛子を使った サルサ・ベルデで煮込みます。
ベルドラーガの ほのかな酸味と サルサ・ベルデの酸味、 豚肉の脂が合わさる メキシコらしい家庭料理です。
クリスマスに食べる ケリーテ「ロメリートス」
ケリーテスの中でも 季節の行事と強く結びついているのが ロメリートスです。
メキシコ中央部では クリスマスや年末、 四旬節などに よく食べられます。
ロメリートスを モレ、ノパル、 ジャガイモ、 エビなどと合わせる料理が 有名です。
見た目が ハーブのローズマリーに 少し似ていますが、 ロメリートスとローズマリーは 別の植物 です。
古くから食べられてきた 野草とモレが一皿に合わさる ロメリートスは、 メキシコ料理の歴史的な融合を 感じられる料理でもあります。
南部メキシコを代表する チピリン
チピリンは メキシコ南部の料理を語るうえで とても興味深いケリーテです。
特にチアパスでは、 タマル・デ・チピリンが よく知られています。
チピリンの小さな葉を マサに混ぜ込んで蒸すことで、 独特の香りを持つ タマルになります。
チピリンは チアパスだけでなく、 オアハカ沿岸部、 タバスコ、 ベラクルス南部などでも 食文化に取り入れられています。
ケリーテスは 「雑草」なの?
ケリーテスの中には、 畑に自然に生えるため 現代農業では 「雑草」と分類される植物もあります。
しかし、 メキシコの伝統農業では すべてを取り除くのではなく、 食べられる植物を見分け、 必要なものを残して利用する 知識が受け継がれてきました。
つまり、 同じ植物でも 「雑草」と見るか 「食材」と見るかは、 その土地の食文化や知識によって 大きく変わるのです。
古代から現代まで続く ケリーテス文化
ケリーテスは スペイン人がメキシコへ来る以前から 食べられてきました。
とうもろこし、 豆、カボチャ、 唐辛子などとともに、 土地に生える植物を 食材として利用する文化が 存在していたのです。
その後、 スペイン征服以降に 豚肉、チーズ、 小麦など 新しい食材が加わりました。
その結果、 ベルドラーガと豚肉、 ワウソントレとチーズなど、 古来のケリーテスと 後から加わった食材が 一つの料理の中で出会う ようになりました。
これはまさに、 現代メキシコ料理が どのように形成されてきたのかを 表す一例といえるでしょう。
よくある質問
Q. ケリーテスは 一種類の野菜ですか?
A. いいえ。 食用になる若葉、茎、 芽、花などをまとめた呼び方です。 メキシコでは350種類以上が 食用にされているとされています。
```Q. ケリーテスは 生で食べますか?
A. 種類によって異なります。 パパロのように 生で食べるものもあれば、 茹でる、炒める、 蒸す、煮込むなど 加熱して食べるものもあります。
```Q. ケリーテスは タコスにも使われますか?
A. はい。 特にパパロは タコスの付け合わせとして 生で食べられることがあります。 また、調理したケリーテスを トルティーヤに挟んで タコスにすることもあります。
```Q. コリアンダーも ケリーテスですか?
A. ケリーテスという言葉は 単純な植物学上の分類ではなく、 メキシコの食文化上の呼び方です。 一般的にはパパロ、 キントニル、 ベルドラーガ、 ワウソントレなどが 代表例として挙げられます。
```Q. ケリーテスは 今でも食べられていますか?
A. はい。 市場や家庭料理、 地域料理などで 現在も食べられています。 一部は栽培され、 商業的に流通しています。
```メキシコ料理は、 肉と唐辛子だけではありません
日本でメキシコ料理というと、 タコス、肉料理、 唐辛子などのイメージが 強いかもしれません。
しかし実際のメキシコ料理には、 ケリーテスをはじめ 多種多様な野菜や香草、 とうもろこし、 豆などを使う 豊かな食文化があります。
山梨県富士河口湖町の 「メキシカン酒場タコドール」では、 料理のおいしさだけではなく、 その背景にある メキシコの食文化や歴史も このコラムを通して ご紹介していきます。
まとめ
ケリーテスとは、 メキシコで食用にされてきた 若い葉、茎、芽、花などの 総称です。
パパロ、 ベルドラーガ、 キントニル、 ワウソントレ、 ロメリートス、 チピリン、 チャヤなど、 その種類は非常に豊富です。
タコスやケサディージャ、 タマル、スープ、 モレ、肉の煮込みなど、 使われる料理もさまざまです。
さらに地域によって 食べる植物や調理法が異なるため、 ケリーテスを知ることは メキシコ各地の食文化を 知ることにもつながります。
とうもろこしや唐辛子だけでなく、 畑や土地に生える 小さな葉や野草にも目を向けると、 メキシコ料理の世界は さらに奥深く見えてきます。








