塩はどうやって作られる?
天日・平釜・立釜・イオン膜。 製法から考える「塩」の違い スーパーに並ぶ塩の袋を見ると、 「天日」「平釜」「立釜」 「イオン膜」「乾燥」など、 不思議な言葉が書かれています。
実はこの表示を理解すると、 その塩がどのように作られたのかが 見えてきます。
まずは簡単に解説
塩づくりの基本は、 塩を含む水を濃くして、 水分を取り除き、 塩を結晶にすることです。
ただし、 海水を太陽と風だけで 結晶化させる方法もあれば、 海水から塩分を集めて 釜で結晶化する方法もあります。
さらに、 できた塩を洗浄したり、 乾燥したり、 一度水に溶かして 再び結晶化したり、 にがりなどを加えたりする場合もあります。
つまり、 「海塩か岩塩か」だけでなく、 「どう作った塩なのか」 を見ることが、 塩を理解する大切なポイントです。
そもそも海水から 塩はどう生まれる?
海水には、 ナトリウムや塩化物をはじめ、 マグネシウム、 カルシウム、 カリウムなど、 さまざまな成分が イオンの状態で溶けています。
海水から水だけを 少しずつ取り除いていくと、 溶けている成分の濃度が上がります。
そして一定以上まで濃縮すると、 溶けきれなくなった成分が 結晶として現れてきます。
成分によって 結晶になりやすい条件が違うため、 濃縮や結晶化のさせ方によって 最終的な塩の組成も変わります。
ここが、 塩づくりの面白いところです。
塩づくりは 大きく分けると5段階
-
原料
海水、塩湖水、地下かん水、 岩塩など、 まず何から塩を作るのか。 -
濃縮
太陽と風、 イオン膜などを使って、 塩分を濃くします。 -
結晶化
天日や釜などを使い、 水分をさらに取り除いて 塩の結晶を作ります。 -
仕上げ
洗浄、粉砕、乾燥などによって、 水分や粒の状態を整えます。 -
加工・調整
商品によっては にがりなどを混合したり、 一度溶解して 再結晶させたりします。
同じ海水を原料にしていても、 この工程の組み合わせが違えば、 出来上がる塩の特徴も変わります。
① 天日とは?
「天日」は、 太陽と風の力を利用して 水分を蒸発させる方法です。
海水や塩水を 塩田へ導き、 時間をかけて濃縮し、 さらに水分を蒸発させて 結晶を作ります。
雨が少なく、 日射量が多く、 乾燥した地域では 大規模な天日製塩が可能です。
メキシコのように 天日製塩に適した地域を持つ国では、 太陽と風を利用した 塩づくりが行われています。
結晶をその後どのように 洗浄・加工するかによっても、 最終的な成分は変わります。 商品ごとの成分表示を見ることが大切です。
② 平釜とは?
「平釜」は、 開放された釜で 塩水を加熱し、 水分を蒸発させながら 塩を結晶化する方法です。
日本の塩でも 「平釜」と表示された商品を よく見かけます。
火力、 温度、 煮詰める時間、 塩水の濃度などによって、 出来上がる結晶の状態も 変わります。
平釜という言葉は 「原料」を表す言葉ではなく、 結晶を作る工程 を表しています。
③ 立釜とは?
「立釜」は、 密閉された装置の中で 塩水を効率よく蒸発させ、 結晶を作る方法です。
現代の大規模な製塩では、 エネルギーを効率よく利用しながら 安定した品質の塩を 大量に作ることができます。
日本で一般的に販売されている 食塩にも、 立釜で作られたものがあります。
粒の大きさや成分を 一定に管理しやすいため、 家庭用だけでなく 食品加工などでも使いやすい塩になります。
④ イオン膜とは?
日本の塩の表示で 特に分かりにくいのが 「イオン膜」 ではないでしょうか。
海水の中では、 塩の成分が プラスとマイナスの イオンとして溶けています。
イオン膜法では、 特定のイオンを通す膜と 電気の力を利用して、 海水中の塩分を集めます。
こうして 海水よりも濃い塩水を作り、 その後、 立釜などで水分を蒸発させて 塩を結晶化します。
つまり、 パッケージに 「イオン膜・立釜」とあれば、
イオン膜で海水を濃縮 ↓ 立釜で結晶化
という流れだと考えると 分かりやすくなります。
⑤ 「乾燥」は 何をしている?
塩の結晶ができても、 その表面や結晶の間には 水分が残っています。
そこで水分を減らし、 サラサラした状態にする工程が 「乾燥」です。
水分の多い塩は しっとりした質感になりやすく、 乾燥させた塩は サラサラして計量しやすくなります。
料理人にとっては、 この違いも意外と重要です。
同じ重量でも、 指でつまんだ感覚や 食材への付き方、 口の中での溶け方が違います。
⑥ 「にがり」とは?
海水を濃縮して 塩の結晶を取り出したあとには、 塩化マグネシウムなどを含む 液体が残ります。
これが一般に 「にがり」 と呼ばれるものです。
にがりには マグネシウム、 カリウム、 カルシウムなどが含まれます。
商品によっては、 塩を作ったあとに にがりを混合して 成分や特徴を調整するものもあります。
マグネシウムやカリウムなどの 塩類は種類や濃度によって 苦味などを感じさせます。 そのため、 多ければ多いほど おいしいというわけではありません。
⑦ 「溶解・再結晶」とは?
塩は、 一度作られたものを 再び水に溶かし、 そこからもう一度 結晶を作ることもできます。
たとえば海外で作られた天日塩を 原料として輸入し、 日本で水に溶かして 不溶物などを取り除き、 再び釜で結晶化する 製品もあります。
この場合、 原料が「天日塩」であっても、 最終製品が 天日だけで完成した塩とは限りません。
製法を比べてみよう
| 表示 | 何をしている? | 料理人として見るポイント |
|---|---|---|
| 天日 | 太陽や風で 水分を蒸発させる | 産地、結晶、 その後の洗浄や加工も確認 |
| 平釜 | 開放釜で加熱し 結晶化する | 粒、水分、 溶け方を見る |
| 立釜 | 密閉装置で 効率よく結晶化する | 均一性や 使いやすさを見る |
| イオン膜 | 海水からイオンを集め 濃い塩水を作る | その後の結晶化工程と セットで見る |
| 乾燥 | 塩に残った 水分を減らす | サラサラ感、 計量性、食材への付き方 |
| 混合 | にがりなどを 後から加える | 原材料表示と 成分表示を確認 |
| 溶解 | 塩を水に 一度溶かす | 原料塩と 最終工程を分けて考える |
精製すると ミネラルはどうなる?
塩を精製し、 塩化ナトリウムの純度を 高くしていくと、 その他の成分の割合は 相対的に少なくなります。
一方、 海水由来の成分を ある程度残した塩や、 にがりを加えた塩では、 マグネシウムなどが 比較的多く含まれることがあります。
実際に、 日本で販売される 塩化ナトリウム99%以上の 「食塩」もあれば、 にがりを加えて マグネシウム量を調整した塩もあります。
ただし、 ここで大切なのは 「純度が高い=悪い」 「ミネラルが多い=良い」 と決めつけないことです。
安定した塩味が必要な料理では 純度や粒が均一な塩が とても使いやすいことがあります。
一方で、 仕上げに塩そのものを感じさせたい料理では、 結晶や水分、 微量成分に特徴のある塩が 面白さを出してくれることがあります。
なぜ塩によって 「塩辛さ」が違って感じる?
同じ塩化ナトリウムを 主成分とする塩でも、 なめたときの印象は 意外と違います。
その理由として考えたいのが、
・塩化ナトリウムの割合
・結晶の大きさ
・結晶の形
・水分量
・その他の塩類
・口の中で溶ける速さ
です。
特に料理では、 重量だけでなく 「どこで塩を感じるか」も 味の印象を変えます。
細かい塩を ソースの中へ完全に溶かすのと、 大きな結晶を 焼いた肉の最後に振るのでは、 同じ塩分量でも 食べたときの感じ方は 同じではありません。
タコドールなら どう塩を考える?
僕が料理で塩を選ぶときに 大切だと思うのは、 「高級かどうか」よりも 何をさせたい塩なのか です。
サルサ
サルサの多くは、 トマトやトマティーヨ、 唐辛子、玉ねぎ、 香草などの野菜と 塩によって味の骨格を作ります。
だからこそ、 塩は脇役のようでいて 非常に重要です。
肉料理
肉の下味なら、 食材全体へ均一に 塩味を入れたいのか。
それとも焼き上がった肉に 大きめの結晶を残し、 噛んだ瞬間に 塩味を感じさせたいのか。
目的によって 選ぶ塩は変わります。
セビーチェ
魚介、柑橘、 唐辛子、香草など 複数の味をまとめるため、 塩の量と溶け方が 全体の印象を左右します。
マルガリータ
グラスの縁につける塩は、 液体に完全に溶かす塩とは 役割が違います。
結晶を直接舌で感じるため、 粒の大きさや付き方まで 飲んだときの印象に影響します。
煮込み、サルサ、肉の下味、 仕上げ、カクテル。 用途によって塩を考えると、 塩選びはもっと面白くなります。
天然塩なら 身体にやさしい?
塩について調べると、 「天然塩なら たくさん摂っても大丈夫」 「精製塩だけが 高血圧の原因」 といった情報を 見かけることがあります。
しかし、 海塩、岩塩、精製塩を問わず、 一般的な食塩の主成分は 塩化ナトリウムです。
天然塩に含まれる マグネシウムやカルシウムなどは、 商品の風味や性質に 違いを与える場合がありますが、 通常の摂取量では それだけで栄養上 大きな違いになるとは限りません。
また、 ナトリウムと血圧の関係には 個人差がありますが、 現在の医学的知見では、 集団全体として見ると ナトリウム摂取量を減らすことで 血圧が低下することが 確認されています。
塩を買うときは 裏側を見てみよう
次にスーパーで 塩を手に取ったら、 商品名だけではなく 裏側の表示も見てみてください。
見たいのは、
① 原材料
② 原産地
③ 製造工程
④ 食塩相当量
⑤ マグネシウムなどの成分表示
⑥ 粒の大きさや水分感
です。
よくある質問
Q. 天日塩と平釜塩は どちらがおいしい?
A. 製法だけでは決められません。 原料、結晶、水分、 成分、料理との相性などによって 味の感じ方が変わります。
Q. イオン膜は 化学的に塩を作る方法?
A. 海水中にすでに存在する イオンの性質を利用して、 塩分を集めて濃い塩水を作る方法です。 その後、釜などで水分を蒸発させ、 塩を結晶化します。
Q. にがりが多いほど 良い塩?
A. 一概には言えません。 にがり由来の成分は 塩の風味に影響しますが、 多すぎれば苦味などが 強く感じられる場合があります。
Q. 海塩と岩塩は どちらが日本人向き?
A. 日本人だから 海塩の方が身体に合う、 あるいは岩塩が合わないと断言できません。私は硬質の水は岩塩のミネラルが溶け出していると考えており、日本人に合う人が少ない=海塩の方が合うと考えています。
塩は「名前」より 「作り方」を見ると面白い
海塩。 天日塩。 自然塩。 高級塩。
名前だけを見ると、 なんとなく 良さそうに感じるものもあります。
でも料理人として 本当に知りたいのは、 その塩が どこから来て、 どう濃縮され、 どう結晶になり、 どんな状態で 自分の手元に届いたのか。
そこまで知ると、 「この塩は肉に使ってみよう」 「これはサルサに」 「これは仕上げに」 と、塩の選び方そのものが 料理の一部になってきます。
山梨県富士河口湖町の メキシカン酒場タコドールでは、 塩のような一見小さな調味料にも 目を向けながら メキシコ料理を作っています。
まとめ
塩は、 ただ海水を乾かせば すべて同じものが 出来上がるわけではありません。
天日で濃縮するのか。 イオン膜を使うのか。 平釜か立釜か。 乾燥するのか。 にがりを加えるのか。 一度溶解して 再結晶させるのか。
その一つ一つの工程によって、 塩の成分、 水分、 結晶、 使いやすさは変わります。
そして料理人にとって大切なのは、 「一番高い塩」を探すことではなく、 その料理に必要な塩を 選べること だと思います。
次に塩を買うときは、 ぜひ袋をひっくり返して 「製造工程」を 見てみてください。
いつもの塩売り場が、 少し違って見えるかもしれません。








